ボックス!
●あらすじ
高校教師の高津耀子は電車の車内でヤンキー達にやっかみをつけられ、トラブルに巻き込まれる。そこに、1人の少年が風のように出現し、ヤンキー達を拳で圧倒していく。
難を逃れた耀子は数日後の勤務で、あの時の少年は耀子の高校の生徒だということを知る。その少年は、ボクシング部1年の鏑矢義平。直接的な関わりは無かったが、耀子の授業担当クラスに在籍する木樽優紀の親友ということで接点を持った。
鏑矢のボクシングが腕前がかなりのものだと知った耀子は、優紀に連れられ鏑矢の試合を見に行く。圧倒する鏑矢。そして会場でボクシング部の監督と出会い、ボクシング部の顧問に就任する。
ボクシング部員全員と耀子、監督の沢木による、壮大な人間、青春、スポーツドラマである。
●感想
読み終わったあとの脱力感がもの凄い。何度も何度も心を揺さぶってくる。移動中のバス車内で涙を流してしまったほどである。
まず、百田作品は、下級者が上級者を目指し、追いつくか、追い越すかのパターン(影法師、ボックス)
ある苦難を抱えた無知者が有識者に知識を請うパターン(モンスター、プリズム)
というような構成が多い。そのため下級者や無知者が上級者、有識者教わるシーンが数多く、その度に懇切丁寧に指導しているため、整形や剣道の知識がない我々読者も想像しやすくなっており、非常に読みやすい。
ボックスも、優紀が鏑矢や沢木に指導を仰いでいることから、ボクシングに関する知識がなくともスラスラ読める点が魅力である。
また、題材が「高校の部活動」という多くの人が経験したことのある事象だということから、登場人物に共感できる点も多いように感じる。
また、鏑矢は常にどのような思考回路か読み取りづらい設定である。それに加えて、本作は耀子、優紀の視点のみでしか描かれていないこともあり、より一層鏑矢のキャラが引き立っている。百田尚樹の神業の一つと言えるだろう。